今頃になってから気づいたけど

躁と鬱の間をふらふらしながら、音楽聴いたり読書したりアニメ見たり。

消滅 VANISHING POINT

消滅 - VANISHING POINT

消滅 - VANISHING POINT

ぶっちゃけた感想

あらすじを書こうと思ったのですが、上手くできそうにないのでやめました。昔から読書感想文は上手くないです。
ぶっちゃけた感想は大体ツイッター通りですが要約すると初期の頃の人間群劇と、最近の社会問題の提起がうまく融合した、これまでのどの作風とも似てると断言はできない恩田ワールドというところです。ぶっちゃけ娯楽的なおもしろさはそこまでではなかったですが(ちなみにその面でいうと一番は『雪月花黙示録』二番は『ロミオとロミオは永遠に』です)ナゾを解くことが大好きな探偵が目の前に「はい、これ謎です!解いてね☆」とぶら下げられたらこんな心持ちなんじゃないか、という気分でした。命やら仕事やらは関わっているので決して楽観的な状況じゃないけど、誰かに作られて目の前に提示された謎が、少しずつその正体を光のもとに晒し、最後は・・・!という流れ。そこはいつものごとくオチには期待しない恩田ファンの慣れっこな対応が必要ですがwそれでもここ数年の作品と比較してもそこまでオチにずっこけなかったかなぁという印象。『夜の底は~』がある以上、どんなものが来ても大抵は大丈夫な自信はあるんだが。

このあとはネタバレになるかもしれないので、読む予定がある方は飛ばして下さい。直接的に展開の話などには関わってませんが。

細かい感想

「国際空港は法律上、どこの国でもない」という舞台設定

某国で指名手配?(ざっくりとしか設定は読まない)されている人が入管で入国申請をしない場合、どのような扱いになるか?という異分子が投げ込まれるのがこの物語のひとつめの「作られた異常」かな。入国申請をしない人にはパスポートの提示を求められない。本人と確認できなければ指名手配の人と一致するかの確認も、その後の諸々の手続きもできない。「法的に宙に浮いた存在」というのは他にも事例があると思うけど、わりと身近で意外な存在だなと感じた。その「浮いた」感覚が奇妙。残念ながら海外に渡航したことがないので、その空港の雰囲気というのは分かりかねるんですが。

人工知能(AI)

これがふたつめの「作られた異常」で、恩田作品には大体(特に初期は?)出てくる異分子、まさかの人外として登場しました。AIとはなんなのか、という定義付けですね。個人的に最近この「定義付け」という行為が好きでたまりません。なんとなくふわりと流す国民性だからなのか、「そもそもそれはどういう共通認識のもとでどのような定義付けをされているのか、を改めて考えると、世界がひっくり返って見えることがある」というアハ体験がたまにできます。
人間とそっくりに動き、感情と知性をもつ(時には性格や癖さえもある)ロボットは、いったいどういう定義でそれが「人間ではなくロボットである」とされるのか?ひっくり返せば「私達はどのような定義でロボットではなく人間だとされているのか」という、自己についての考えに至るわけです。ということが本文に書いてありました。なるほど興味深い。科学の分野だけでなくこのような哲学的?な分野においてもロボット研究は繋がっていくんですね。

ふたつめの人外「犬」

恩田さんの密室劇には珍しく人外がふたつも出てきますが、そのふたつめが「犬」でした。唐突に登場した時からなんか怪しいなぁと思ってたわけですが、最初にこいつがテロリストだと誰かが言い出した時は膝を打ちました。この辺りまでは登場人物の推理と私の推理がなんとか競ってるくらいの状態だったわけで…。結局オチもそこまでぶっ飛んだわけではなかったですね。もう少し伏線を回収しても良かった?かな?

それってウィ○リークスだよねっていう話

それこそウィキの情報しか知らないけども現実にもあるよねって思いながら読んでいくと、なるほど科学が進歩したらこのようなことも不可能じゃなくなるだろうと思えました。生々しさをトッピングするのにはいい設定だったのかも。開発者がわりと人情モノだったっていうのも、ちょっとした転がし方かな?こういう最先端技術を使ってなんやかんやという人はどうしても冷徹に思われがち(と私が思っている)から。

回収されたっけ?

登場人物が増えると途端に脳がフリーズするのでもしかしたら回収されていたかもしれないですが、冒頭で心臓麻痺?で倒れた男性の伏線はどこかで回収されましたか?女医さんがかけよって、ヘッドフォンくんがAEDを持ってきた人。余談ですがこのヘッドフォンくん、名前を「世良」と空見してからどうしても脳内に隈の深い女子高生探偵が浮かんでいました。まぁ、たぶん似てなくもないんだろう。
キャスリンが持ってきたくじびきの袋が例のコーヒーショップだったところで「これは殺されるフラグ!」と思ったら、そんなことなくあっさり流されてしまったのも悲しかった…。

オマージュもと

とりあえず「怒れる12人の男たち」はモトになってると思います。11人だっけ?舞台で見たことがありますが、人間しかいなくて、派手な出来事があるわけではなく、脚本上は淡々と進むはずなのに、役者という人間の熱量でこれほどになるのか、というのを魅せつけられました。それを文章で見事にオマージュしたなぁという感想。『木曜組曲』や、『ネバーランド』、『夏の名残の薔薇』、『訪問者』もかな?人が集まって、会話をして、考えを巡らせて、相手の思考を慮って、そうして進んでいく物語、っていうのはとても恩田さんらしいかなと思っている。

これは完全にネタバレです。あの少年の持っているちょっと不思議な能力は、ベンジーの開発したソフトの行く先の未来なんじゃないかなと思ったクチです。相手の脳に浮かぶものをイメージとして自分の脳に浮かばせる、という能力だよね?翻訳こ○にゃく的なものがあるからこそ、ひとは外へ出て人と顔を合わせ話をしていけるという理論、賛成でした。いくらWWWが主流となっても、感情の機敏は伝えられないし、伝わらないし、感じ取れない。と思いたい。もしそれが可能になるなら、人間の定義を見直す時がこんどこそ来るのかも。

総括

「ほうほうサイバーパンク(覚えたて)的な殺伐として猥雑とした感じのアレなのかな?」という冒頭から、「人ってあったかい…」という終わり方で、オチの弱さを考慮してもいい結末だったと思います。なにせ前作で期待はずれもいいところの結末を突き付けられちゃったから。